アグレッシュおおいた

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就農12年目にして、初めての農業
豊後大野市
田中 拓次
田中 拓次

 私は平成16年にお茶で新規就農して、今年で13年目を迎えます。実家が熊本で茶の卸業を営んでいることもあり、自社生産によるコストダウンと直売による増益を目的に新規参入しました。
 しかし、ここ十数年で茶の市場単価は3割も低下し、供給過多が続いています。急須で淹れて飲むリーフ茶の需要が激減しているのが主な要因です。実家の卸業も緑茶のスーパーでの販売が縮小し、ネットでの小売りも思うように伸びません。実家もどちらかというと、緑茶より健康茶や健康食品の加工受注が中心となり、業態転換を図りなんとかデフレ不況を乗り切ってきました。
 私の方でも実家だけに頼らず、某大手ペットボトル緑茶メーカーへの原料供給や、茶商さんとの相対や入札取引、葬祭の香典返しの共同出荷など、色々な売り先を確保していきました。 一時はどうなるかと思われていた経営も、収量・品質・売り先が安定したこともあり、なんとか見通しが立つようになりました。
 しかし、お茶は冬場の収入が全くといっていいほどありません。5月の新茶から10月の秋冬番茶まで売り上げを立て、主に6~11月までの入金で1年分回していきます。2~5月がキャッシュフローで厳しい時期を毎年なんとか乗り切ってきました。
そこで、ほかの作物は何かないかと検討していたところ、役場の方の勧めもあり、高糖度甘藷の『甘太くん』の生産を始めることになりました。

 しかし、私ははっきり言って農業の素人です。お茶はどちらかというと、米麦の生産に近い機械型の農業です。最初の植え付けこそ手作業ですが、その後は主に専用の機械で管理します。肥料も農薬も収穫も全部お茶専用の機械で行います。刈り取った茶葉の加工も、米麦の乾燥と同じく機械で行います。ほとんど手仕事、百姓仕事はないのです。
 甘藷を始めた際、とにかく見通しが甘かったです。育苗ハウスを建てるところからスタートですが、他の人のハウスを見たり、ネット動画で建て方を見たりしてやり始めたのですが、うまくいきません。見かねた甘藷栽培の先輩である友人が来て、一緒に建ててもらいましたが、一度妻と二人で建てたアーチは全部やり直しで、アーチの高さ・幅もバラバラでした。
 とにかく分からないことだらけで、こんな状態でよく手を出したなと、手伝ってくれたみんながそう思ったことでしょう。だって、自分自身でもそう思っているのだから。

 なんとか、育苗をスタートさせ、本圃場の準備。当然ですが、お茶はトラクターや管理機がないので、人に頼ります。本当は農業公社に深耕・耕運整地・土壌消毒・マルチ張りを全て頼む予定でしたが、雨天続きで作業に入るのが5月以降と言われ、すべてがとん挫してしまいました。
 このピンチも色んな方々が助けてくれました。消毒機を持ってきて、消毒していただいたり、トラクターを貸してもらったり。また、知人の紹介で倉庫に眠ってほとんど動かしてなかった程度の良いトラクターを格安で譲ってもらいました。
収穫期を迎えても、人に助けられてばかりです。つる切り機も無償で貸していただいたし、小芋の小袋出荷のための洗浄機も勝手に使わせて頂きました。
 自分で言うのはなんですが、お茶ではある程度高品質なお茶を安定して作る技術と経験を培ってきたので、人にお茶の栽培や加工で教えることはあっても、教わるということはほとんどありません。茶農家数も少なく、作り方も売り先もバラバラなので、お互い協力し合うということもなく、個人で頑張るしかない状態でやってきました。
 部会に入り、農協を通して出荷することも初めてです。部会の先輩たちは皆さん元気があって、『若けぇ人らに儲けてもらいてぇんよ!!』と声をかけてもらいます。また、借りた機械もこちらがお願いする前に、向こうから『つる切り機あるんかえ?』『うちの芋洗い機使いよ~』と気を回してくれます。今まで経験したことのない農村の温かさを初めて感じました。
 また、畑での手作業も新鮮でした。甘太くんは傷つけないように、鋤だけ入れて、掘り取りは手作業です。地べたに這いつくばって、土と戯れて収穫するのは、本当にきつくて、腰も膝も痛くなりますが、改めて収穫の喜びを感じました。収穫後の圃場をラジオ聴きながらトラクターで耕運していると「あぁ~農業しているなぁ~」とお茶では得られなかった充実感をひしひしと感じました。
 芋は収穫後、貯蔵庫に保管し、順番に出荷します。こちらは部会で全部出荷し終わってからまとめて清算となります。比較的小さい小芋は、個人で洗浄し、選果、小袋詰めで出荷します。こちらは2週間プールで入金があります。
手作業で芋のツルを切り、選果して袋に詰める、夫婦二人で話しながら室内で作業します。お茶ではおもに大型機械を私が動かし、妻はひたすら草取りと、夫婦で同じ作業することはほとんどありません。甘藷では夫婦で同じ作業を同じ時間に行えます。
二人で作業した小芋を農協の選果場へ持っていき、前回出荷分の単価表をもらい、入金を心待ちにする…。農家らしい生活、農家らしい喜びを感じます。
 芋は出した後は勝手に入金があり、代金回収の手間もリスクもありません。アグレッシュおおいた会長の栗田さんから聞いた『農協の共販は日本だけの素晴らしいシステム』という言葉を思い出しました。
 お茶は月末自分で請求書を出し、代金が入らなければ、電話したり再請求したり。また、小売りでは注文が入ったら、急ぎの農作業を中断して対応しないといけません。それに比べると農協の共販は、作って出荷するだけで、あとは勝手にお金になり、口座に振り込まれます(資材代も勝手に引かれますが…汗)農家は市況とにらめっこしながら、良いものを作ることに集中できます。これはほんと素晴らしいシステムだと私も心からそう思います。
 まだまだ、就農13年目で農業2年目です。親切にして頂いた先輩方への恩返しは、私が一人前になることです。お茶も芋も、夫婦楽しく明るく、良いものを作って、たくさんの人に喜んでもらえるよう、努力し続けます。