アグレッシュおおいた

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「就農3年間の反省と、企業的農業経営を目指して」
田中 拓次

田中拓次
就農の経緯

この会場で聴かれている農業者の方々の多くは、ご両親やご祖父母が農業を営んでおられた後継者だと思います。私の場合、元々は熊本で茶の卸業を営む父の会社に勤めておりました。
ここ数年、地元小売業者の倒産などで卸業者には厳しい現状が続いておりました。そこでこれからは、自分たちでニーズに応じた茶作りから販売まで手掛けていこうという方針から、私が大分で就農して茶の生産を担当し、父と兄が熊本の会社で商品化・販売を手掛けるという形を目指し歩き始めました。

実際に農業を始めて

実際にお茶を植えて農業を始めてみると、想像もつかなかった苦労の連続でした。元々農家ではありませんので、まったく農業への知識・経験がなく大変苦労しました。
まず、一番問題なのは面積です。いきなり初年度に3.5haもの面積を新植したことにより、その管理作業、特に夏場の除草作業が非常に大変なものになってしまいました。卸業者としてお茶を動かす量からすると、3.5haから取れるお茶の量は大した量ではないのですが、管理する側の労力からすると相当なものです。
雑草の生育が激しい時期は除草作業が追いつかず、『幼木がどこにあるのかわからない』という状況になることもありました。
その除草作業に追われて、肝心の施肥や病害虫防除のタイミングを失ってしまうこともしばしばありました。
それも今思えば、元々農家ではないことからの無知と想像力とシミュレーションのなさが原因だと言えるでしょう。
私自身、それまでごく普通の会社員でしたし、新植する際には見たこともない額のお金を動かすことや多額の借り入れをすることに、正直戸惑いを隠せませんでした。新植作業では、時には20人近い人間を動かさなくはならず、段取りを考え、それぞれに指示を出すことも初めてのことでした。未経験のことばかりで扱う規模も大きいことから、プレッシャーで押しつぶされてしまいそうでした。
お茶をはじめて丸三年、一番茶の収穫を三回経験したわけです。私としては出来る限りのことを精一杯し、雨の降る前日に真夜中でも畑に出て、懐中電灯で照らしながら肥料を撒いたりしたのですが、毎回収穫直前に降霜などの天災に見舞われ、まだ一度も満足いく品質のお茶を作ることができていません。特に平成16年4月の全国に被害をもたらした降霜により、収穫寸前の新芽が一晩で真っ黒に豹変し全滅したあの光景を今でも忘れることができません。
ただ唯一の救いは、収穫したお茶の旨味成分を表す窒素の含有率が分析の結果、一昨年は5.5%、昨年は6%と良くなっている結果が出たことです。今までの施肥設計や土作りが間違いではなかったということの証明だったと思います。

反省から学んだこと

しかし、いつまでもネガティブな過去に囚われて、未来を失ってばかりもいられません。こうした苦労を経験と捉え、前に進むしかありません。
将来さらに面積を増やす場合には、市場ニーズから必要とされる品質・量を逆算し、また自分たちの管理能力を見極めた上で、品種選びや面積の確定をしていきたいと思います。
またお茶だけだと冬場に仕事がなくなり、常時雇用ができないのが現状です。すでに秋口の9月~10月には桑の葉を収穫して桑茶に加工するなどしています。これからは冬場の作物を始めて、年間を通して作業が出来る状況を作ることで、地元の雇用を増やし地域に貢献できるようになりたいです。
現在は私一人で経営と農作業をこなしているのが現状ですが、茶園が成園化し、徐々に収益を上げてくるにしたがって若い人材を雇い、農作業を任せ、私は極力指示をするだけの状態にするのが理想です。そうすることで茶園や他の畑全体に目が届き、効率的な作業指示ができるし、起こる事象に対してすばやい対応が可能になります。また販売など収益を得られる方に時間と知恵を向けることが出来るからです。
それに今は地域のお祭りや自治体の活動、農業青年の活動なども仕事を理由に断るケースが多いのですが、自分自身の負担を減らしていければ自ら参加して地域の発展に貢献できると思います。

今後の目標

現在私は独身で、親会社から給与を貰い生活しています。近い将来、結婚など環境の変化が訪れるでしょうし、なによりできるだけ早く自立できるようになりたいです。そのためにも、収益の得られる農業と生産物の販売をしていかねばなりません。
例えば仮に月50万円の給与をもらうとすると、月25日働けば日当は2万円です。一般的な企業が日当2万円の人を雇って草刈をさせるでしょうか?一日中、肥料撒きをさせるでしょうか?答えは明白だと思います。
今は自分自身の労働はタダだと思い、人に払うコストを抑えていますが、それではいつまでたっても自立はできないと思います。だから自分自身の労働力も経営的にはあくまでコストであって、その給料に見合った売り上げを生む人間に成長しなくてはなりません。
農業は作物を育てて売るという、言ってしまえば単純な仕事ですが、それを通して本当の今の自分が見えてくる仕事だと思います。茶園を毎日見て変化に気がつかなければ、余計な農薬を必要としたり、品質を落としたりします。そうして起こった事象はすべて自分自身に努力や工夫、観察力、行動力が足りなかったことの証明です。
知恵や工夫を学び、実際に行動して経験を重ねることは、自分の足りない部分に肥料や水を撒き、自分自身の基礎となる土を作り、育てていくものだと思いました。最後には、人の目に映って綺麗だと思われるような花を、私自身の中に咲かせたいと思います。
そして、自分の子が後継しなければお終い、という今までの農業から脱却し、将来自分が退いても有能な後継者が引き継いでくれるような、『時を越えて生き続けられる会社』を、農業分野で築き上げるのが私の最終的な目標です。